企業におけるDXはなぜ失敗するのか?
ーDX推進で陥りがちな落とし穴を考えるー

DXというキーワードが2010年代後半に登場しましたが、日本においては、2018年、経済産業省が「DXレポート」を公表してから、新聞や雑誌などの紙面で頻繁に取り上げられてきました。 
一方で、DXの推進にはいくつもの壁があると言われており、企業の規模に関わらず、失敗に終わった事業や取り組みも多く、推進における課題に直面している担当の方々も少なくありません。 
今回のコラムでは、DXが上手くいかない要因について取り上げ、より確実に推進を行うために注意したいポイントを整理したいと思います。 

目次 

  1. DXに関する思い違い 
  1. 日本におけるDXの現状 
  1. DXが上手くいかない主な理由 
  1. まとめ 

  

1. DXに関する思い違い

そもそもDXの意味とは?

経済産業省が「DXレポート」では、2018年の第1版と2020年の第2版において、DXは下記のように定義されています。  

DXの定義
『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会の
ニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、
プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』

出典:「DXレポート2(サマリー)」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-1.pdf

DXはデジタルトランスフォーメーションの略ですが、その言葉通り、デジタルによってトランスフォーメーション(変化、変革)させるということが必要になります。単に一部の工程でアナログをデジタルに置き換えるということではなく、組織や業務プロセスも含めた変革のことを指している、という点に注意が必要です。

手段であって目的ではない

DXによって何を達成したいのか?が不明確なことも、DXが進まない大きな原因となります。現場が目的を理解できないままにDXを銘打ったツールを導入したり、単なる既存業務のデジタルへの置き換えに終わったり、といったことが起こります。 
まずは、どのような「あるべき姿」を描き、どのような課題を解決するのか、あるいは、「ありたい姿」から何を行っていくべきなのか、といったことを明確にすることが必要です。 
社内で目的を共有し、DXを手段として、実現したい姿に向かっていくことが基本となります。 

2. 日本におけるDXの現状 

総務省の「令和3年版 情報通信白書」によると、日本、米国及びドイツの3か国の企業モニターを対象にしたDXの実態調査を行い、DXの取組を尋ねたところ、約6割の企業が「実施していない、今後も予定なし」と回答しました。 
企業の規模で比較すると、大企業で約4割、中小企業では約7割となるので、特に中小企業ではDXが進んでいない状況にあると言えます。 

業種別にみると、取組を「既に実施している」と回答した割合が高いのは情報通信業で、約45%の企業が取組を進めています。一方で、製造業、エネルギー・インフラ、商業・流通業が25%前後、サービス業・その他では約16%にとどまっているそうです。 
 
また、企業がDXに取り組む目的について、2020年度の日本およびドイツの場合、「業務効率化・コスト削減」がトップとなっています。一方で、米国のトップは「顧客満足度」となり、「新製品・サービスの創出」、「新規事業の創出」、「ビジネスモデルの変革」についても、目的として挙げる企業が多く見られます。 
 
上記のことから、日本では、特に中小企業においてDXの取組は思うように進んでおらず、前述したDXの定義に沿った取組も数が少ないことがわかります。 

出典:「令和3年版 情報通信白書」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1200000.pdf 

3. DXが上手くいかない主な理由

DX推進の取組が途中で頓挫してしまったり、DXの必要性を感じていても、本格的な推進までは踏み切れなかったりといったことがあると思います。 
では、上手くいかなくなる要因には、どんなものがあるのでしょうか。

「成果」の落とし穴

経営層がDXの本質をよく理解していない場合など、短期的な成果を求めることがあります。わかりやすく成果が見えることを求めると、現場はより成果が見えやすいことに注力します。 
そのような取組は、一部の既存業務の効率化などに終始し、本来のビジネスに必要なDXにつながらないことがあります。 

まずは、長期的に取り組むことを念頭に、会社として何を目指すかというビジョンを描き、現場の従業員までそのビジョンを共有することが必要です。 
従来のやり方や慣習に囚われずに「変革」を起こすためには、まず上層部が理解を深め、目指すべきところを明確にして取組を主導しなければなりません。 

「人材」の落とし穴

DX推進に求められる人材と言うと、どんな人物像が思い浮かぶでしょうか? 

「システムに詳しい」「ITに強い」と言われる、デジタル技術に通じている人をイメージすることが多いと思います。 
しかし、そのような人に推進を任せれば安心、というわけではありません。 
DX推進に必要なスキルやマインドセットを確認し、自社に必要な人材像を明確にする必要があります。 

経済産業省による「デジタルスキル標準」では、従業員が身につけるべきDXリテラシーが提示されていますが、一人ひとりが自社内での役割に応じた知識やマインドを持つことが必要です。 

「対策」の落とし穴

昨今、市場には多種多様なデジタルツールが出回っています。導入を検討しているツールと「カオスマップ」をキーワードに入れて検索すると、実に多くのツールやサービスが存在し、まさに混沌とした状態であることがわかります。 

製品ベンダーは、自社製品の特長や活用方法については熟知しており、ツール導入によりどのようなことが可能となるか?は理解できます。ただ、どの製品が自社に合うのかといったことまで検討せずに導入すると、結局は使いものにならなかった、かえって効率が悪くなってしまったなど、残念な結果になりかねません。 
対策を急ぎ過ぎず、導入前に自社の状況をよく把握することが求められます。その上で、それぞれの製品をどのような観点で比較するのか、重視する点はどこなのかといった整理をし、十分な検討を行う必要があります。 

上記のようなことがDX推進の障壁となることを把握しながら進めるのはもちろんですが、課題整理や人材育成など、ある程度の時間が必要なこともあります。前述した「令和3年版 情報通信白書」にもあるように、日本の企業は、米国・ドイツに比べて、内部での育成を志向するようですが、時には外部の力を借りながら進めることも有効です。 

4. まとめ

まとめ

  • DXは 単に一部の工程でアナログをデジタルに置き換えるということではなく、組織や業務プロセスも含めた変革のことを指している。 
  • 社内でDXにより何を達成したいのか?という目的を共有し、実現したい姿に向かっていくことが基本。 
  • 日本では、特に中小企業においてDXの取組は思うように進んでおらず、「新製品・サービスの創出」、「新規事業の創出」、「ビジネスモデルの変革 」に関わる取組も数が少ない。 
  • DX推進が上手くいかない要因には、DXへの理解不足、人材や対策に関わる思い違いがある。 

今回は、DX推進を行う上で障壁となり得ることについて取り上げました。限られたリソースの中で変革を目指すことは時に険しい道となります。 
当社でもご支援をできることがあるかと思いますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。