データマネジメントとは何か
第1回
ビッグデータという言葉が登場してから10年以上経ちました。この10年でデータはヒト・モノ・カネに次ぐ企業にとって第四の資産であると言われるようになりました。企業の資産であるデータを有効活用するために、データ活用やデータ分析、AI導入などに多くの企業が取り組んでいます。
しかし、それらの取り組みの中で、問題も生じています。
例えば、活用するデータが適切な状態にあるか、どこに保存すべきかなどを意識せずにデータを収集してデータ活用を進めてしまったために、気が付いたらどこに何のデータがあるかわからない状態に
陥ってしまった、というケースなど「データという資産の管理」ができていない状況が起きています。
ヒトという資産であれば、組織としてどこに所属しているか、健康状態は良好かを定期的に検査し管理します。パソコン端末などのモノであれば、どこにどの端末が存在するか、それは誰が利用しているのか、などを定期的に棚卸しして把握します。カネも同じように、資産や負債の総額、どの企業に対して買掛金計上しているかなどを日常業務の中で把握します。
データも同様で、データという資産がどこに保存されており、誰がどこで何に使ったのかを把握し管理することが必要です。それがデータマネジメントです。
本コラムでは、データマネジメントというのはどういうことをすることか、実現するために必要なことをお伝えしていきます。
目次
1.データマネジメントとは
(ア) データマネジメントの必要性
データマネジメントという言葉をご存じでしょうか。データマネジメントとは、「データ」を「マネジメント」すること、つまり管理することです。データ活用を推進する時には同時に推進されるべき活動です。
具体的な実施内容は2回目でお伝えしますが、前述したとおりデータという企業の資産を管理することになりますので、データマネジメントそのものが、売上に貢献するわけではありません。
そのため、データマネジメントの必要性はまだ多くの企業で十分に認識されているとは言い難い状況です。逆にその必要性を十分に理解されている企業はデータ活用が進んでいる企業である、と言えるかもしれません。
データマネジメントは、データ活用をより良く円滑に推進することを目的に行われる業務です。企業活動を円滑に推進するための「資源」である人財を人事という概念で管理しているのと同じように、
データ活用を円滑に推進するためのデータという「資源」を管理することが必要です。
よって、データマネジメントは、人事・財務・物品管理を行う総務などと同じように、データ活用をする企業には求められているものであると言えます。 データが管理できている=データマネジメントで目指す姿を、身近な例で示します。
例えば、小学校から受け取るプリントを適切に管理することもデータマネジメントといえます。先生や地域の商店、自治体が作成したプリントを小学校が収集し子供たちに渡します。それを家庭に持ち帰り、保護者に渡します。
ここで、子供たちが「授業参観のお知らせは保護者が目を通さなければならないものなので重要な書類としておこう」、「イベントのお知らせの書類を保護者は見ないかもしれないが、このイベントには行きたいので重要な書類としておこう」、「小学校でのルールなどは、有効期間があるものではないので、永続的に扱う書類として扱おう」などと、カテゴリごとに分類し、重要度や有効期間などを意識して整理整頓してくれればよいのですが、おそらく大多数の子供は全てを一同に保護者に渡します。場合によっては、1週間分の書類を一気に保護者に渡すこともあるかもしれません。
それらの書類を整理せずに「プリント用の箱」にどんどん蓄積していくと、データを収集はできていますが、その中から必要な書類を見つけるのが非常に困難になり、授業参観に行きそびれたり、小学校でのルールから逸脱した行為を行い先生から注意を受けたりして、実生活に影響を及ぼします。
こういった状態は小学校からのプリントを適切に管理できていない=データマネジメントができていない状態といえます。集めたプリント=データを適切に管理し、必要なときにすぐにそのプリントにアクセスできる状態を、データマネジメントができている状態といえます。
(イ) データマネジメントのリファレンスDMBOKとは
データマネジメントの例を示しましたが「データを管理する」ためには、多くの事項を実践することが求められています。例えばどんなことがあるのか、世界的なフレームワークDMBOKに定義されているThe DAMA Wheelを用いて説明します。
DAMAとは、the Data Management Association Internationalの略称で、37カ国80支部で運営されているデータマネジメントのプロフェッショナル団体です。データマネジメントの知識体系ガイド(DAMA-DMBOK Guide)などのベストプラクティスを提供しています。ボランティアで運営される非営利団体で、ベンダーや技術に対しては中立的な立場をとっています。
データマネジメント知識体系ガイド第二版(日本語版)は、2018年12月に刊行されています。
そのDMBOKに記載されているDAMAホイール図を下記に示します。
出典: DMBOK2 第1章より「DAMAホイール図」
DAMAホイール図に記載されている11の領域は、DMBOKで示されているデータマネジメントの知識領域として記載されています。これらの知識領域に対し、目指すべきゴールとインプット・アクティビ
ティ・アウトプットなどが定義されています。
詳細は、DMBOK2に掲載されているため、ここでは簡単に各知識領域について紹介します。
先に続きを読みたい方はこちら
Data Governance (データガバナンス) | 資産としてのデータの管理を組織やルールを用いて統制すること |
Data Architecture (データアーキテクチャ) | 企業全体のデータに求める構造やその構造に合わせるための計画を立案すること |
Data Modeling & Design (データモデリングと デザイン) | データ要件を明らかにするためのデータモデリングの様式を用いて表現し、 関係者で共有できるようにすること |
Data Storage & Operation (データストレージと オペレーション) | データの生成から活用・アーカイブ・削除までのライフサイクルを適切に管理できる環境を整えること |
Data Security (データセキュリティ) | 適切な人が適切なデータにアクセスするよう権限設計やデータのセキュリティ 基準などを定め、運用すること |
Data Integration & Interoperability (データ統合と総合 運用性) | 社内の個別組織で管理されているデータを相互に利用できるよう環境を整えること |
Document & Content Management (ドキュメントと コンテンツ管理) | 構造化データ(表形式で表現できるデータ)と非構造化(静止画などの表形式では表現できないデータ)を統合して管理する環境を整えること、データのライフサイクルについての計画を立案すること |
Reference & Master Data (参照データと マスターデータ) | 社内で利用されているコードやリストなどが共有され一貫して利用される環境を整備すること |
Data Warehousing & Business Intelligence (データウェアハウスと ビジネスインテリジェンス(BI)) | データを収集し利用でき・社内の意思決定支援を実現する環境を整備すること |
Metadata (メタデータ管理) | データのデータであるメタデータを集め利用することでデータへのアクセスを 支援し、データの品質やセキュリティ確保を実現すること |
Data Quality (データ品質) | データを利用するにあたって求められる品質を定義し、品質を満たしているかを確認・改善すること |
世間一般では、個人情報保護法などのセキュリティ面での話題がデータマネジメントの中心になることが多いですが、データ活用の現場では、データを分析する際に紐づけがうまくできずに困る(データアーキテクチャの不備)ことや、データがあってもそれが何を示しているかがわからない(メタデータ管理の不備)、データが思った状態で提供されないこと(データの不備)による弊害が起こることが多くあります。
このように、いざビジネスの利益に直結するデータ活用を実施しようとした時に見えてくる様々な問題は、往々にしてデータマネジメントがされていない、あるいはデータマネジメントが考慮されていないことによって起こっていると言えます。
では、データを適切に管理して有効的に活用するためには何をすればよいのでしょうか。それには、システム改修以外にも多くの要素を検討してもらう必要があります。
- データ活用・マネジメントの組織構成をどうしたらよいか
- 社員に対して必要な意識改革は何か、スキルは何が必要か
- 社員を育成し実行していくためのデータ活用・マネジメントの戦略の立案組織の割り当て
- 戦略を具体な業務に置き換え、ルールを整備する
- 実行する組織・業務・システムなどを検討しPDCAサイクルを回し評価改善をしていく取り組みの実践
以上のような、業務やルールで達成すべき目標や業務を示しているものがDMBOKです。
しかし、DMBOKを全て実践しようとすると、コストがかかります。そのため、企業各々の現状や課題に即して活動する範囲を決定することが必要です。
そして、その活動の目標を定義し、一気に全て完璧に実践しようとするのではなく、
必要な部分からデータマネジメントに取り組むことが肝要です。
2. まとめ
これまで述べてきた事柄について、まとめると以下の通りになります。
まとめ
<データマネジメントの必要性>
- データは企業の第四の資産である
- 企業の資産を管理することと同じようにデータも管理する必要がある
<リファレンス DMBOK>
- DAMA-DMBOK Guideというリファレンスがある
- DMBOKとはデータを扱い管理するための目標や業務を示しているもの
- 企業の現状や課題と照らし合わせ、部分的に取り組んでいくことを推奨
第2回では、より詳しくデータマネジメントの業務について紹介いたします。
データマネジメントに関する経験や知見を踏まえ、まずは何に取り組むべきか、アドバイスし、組織構成や業務の検討など当社がお手伝いできることもございます。なるべくコストをかけずに、中小企業の皆様が課題を解決できるような方法を一緒に考える、というのが、当社の方針です。まずは、気軽にお問い合わせください。